【テンプレート付き】バランス・スコアカードとは?わかりやすく解説

バランス・スコアカード(BSC:Balanced Scorecard)とは、ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・S・キャプラン教授とデビッド・P・ノートン氏によって提唱された、企業の戦略目標達成に向けた進捗状況を多角的に評価・管理するためのフレームワークです。

現代の複雑なビジネス環境において、企業の成功には短期的な財務指標だけでなく、長期的な成長に向けた取り組みが不可欠です。

しかし、「長期的な成長」といった抽象的な目標は、具体的な行動に落とし込みにくく、組織全体で共有することも難しいという課題があります。

そこで注目されるのが、バランス・スコアカード(BSC)です。

BSCは、従来の財務指標中心の評価システムでは捉えきれなかった、「顧客」「内部プロセス」「学習と成長」という3つの非財務的な視点を加えることで、企業の長期的な価値創造の源泉を可視化し、戦略の実行を促進します。

本記事では、BSCの4つの視点、導入後のメリット、また実際に導入する場合に役立つテンプレートを詳しく解説します。

目次

BSCの4つの視点:バランスの取れた視点から戦略を評価

BSCは、以下の4つの視点から企業の戦略目標達成度合いを評価します。

それぞれの視点は相互に関連しており、バランスの取れた視点から戦略の実行状況を把握することが重要です。

  1. 財務の視点(Financial Perspective):
    • 株主や投資家といったステークホルダーの期待に応えるための財務的な目標を設定します。
    • 例:売上高成長率、収益性向上、株主価値の最大化など
  2. 顧客の視点(Customer Perspective):
    • ターゲットとする顧客セグメントにおいて、どのような価値を提供し、顧客満足度を高めるかという視点です。
    • 例:顧客満足度向上、顧客維持率向上、新規顧客獲得数増加、市場シェア拡大など
  3. 内部プロセスの視点(Internal Process Perspective):
    • 顧客に価値を提供し、財務目標を達成するために、どのような内部プロセスを改善・効率化する必要があるかという視点です。
    • 例:業務効率の向上、品質改善、リードタイムの短縮、新製品開発サイクルの短縮など
  4. 学習と成長の視点(Learning and Growth Perspective):
    • 上記の3つの視点の目標を達成するために、組織の能力(人材、情報システム、組織文化など)をどのように向上させるかという視点です。
    • 例:従業員満足度向上、従業員のスキルアップ、情報システムの導入・活用、イノベーションの促進など
バランス・スコアカードイメージ

この図は、財務・顧客・内部プロセス・学習と成長という4つの視点が相互に独立したものではなく、それらの因果連鎖を示しています。

例えば、従業員のスキルアップ(学習と成長の視点)が業務効率の向上(内部プロセスの視点)をもたらし、市場シェアが拡大(顧客の視点)が売上高成長率を上昇させるというように、各視点の目標が連鎖しあい、最終的な戦略目標の達成に繋がる様子が視覚的に理解できるかと思います。

BSC導入のメリット:戦略実行を加速する力

BSCを導入することで、企業は以下のようなメリットを享受できます。

  • 戦略の明確化と組織への浸透:
    抽象的な戦略目標を具体的な行動目標に落とし込み、組織全体で共有しやすくなります。
  • 目標の連鎖と整合性の確保:
    4つの視点の目標を連鎖させることで、組織全体の活動が戦略目標達成に向けて整合的に機能するようになります。
  • パフォーマンス測定と評価の多角化:
    財務指標だけでなく、非財務指標も加えることで、よりバランスの取れたパフォーマンス評価が可能になります。
  • 戦略的なフィードバックと改善:
    定期的なBSCのレビューを通じて、戦略の実行状況をモニタリングし、必要に応じて改善策を講じることができます。
  • コミュニケーションの促進:
    BSCは、組織内のコミュニケーションツールとしても機能し、戦略に関する共通認識を醸成します。

BSC導入に役立つテンプレート

スクロールできます
視点戦略目標重要業績評価指標(KPI)目標値(期間)実績値(期間)アクションプラン進捗状況(%)課題・対応策
財務の視点例:3年後の経常利益20%増例:年間経常利益成長率例:+7% (年)例:+5% (年)例:新規高収益サービスの開発、コスト削減プロジェクトの推進例:70%例:新規サービスの立ち上げ遅延。マーケティング戦略の見直しが必要。
例:新規収益源からの売上比率例:10% (年)例:8% (年)例:新規顧客ターゲットの明確化、営業チームへの製品知識研修の実施例:80%例:営業チームの知識不足が課題。追加研修の計画。
顧客の視点例:顧客満足度No.1の実現例:顧客満足度調査スコア例:90点 (年)例:85点 (年)例:顧客の声収集アンケートの実施、クレーム対応プロセスの改善例:60%例:アンケート回収率が低い。インセンティブ付与を検討。
例:顧客維持率例:95% (年)例:92% (年)例:ロイヤル顧客向けプログラムの導入、定期的なフォローアップの実施例:85%例:競合他社のキャンペーンによる離反。対抗策の検討。
内部プロセスの視点例:業務効率を大幅に向上させる例:主要業務の処理時間短縮率例:15% (年)例:10% (年)例:業務プロセスの可視化とボトルネックの特定、RPA導入の検討例:50%例:RPA導入の費用対効果分析に時間がかかっている。専門家への相談を検討。
例:製品・サービスの品質不良率例:0.5% (年)例:0.7% (年)例:品質管理基準の見直しと徹底、製造ラインの自動化例:75%例:一部サプライヤーの品質問題が影響。サプライヤーとの連携強化が必要。
学習と成長の視点例:変化に対応できる組織能力の獲得例:従業員一人当たりの研修時間例:20時間(年)例:15時間(年)例:外部研修への参加促進、eラーニングコンテンツの導入例:75%例:業務多忙により研修時間が確保できていない。研修時間の確保方法を検討。
例:従業員エンゲージメントスコア例:75点 (年)例:70点 (年)例:社内コミュニケーションの活性化、キャリアパス制度の整備例:65%例:コミュニケーション不足が課題。チームビルディング施策の実施を検討。

テンプレートの各項目の説明:

項目説明
視点BSCの4つの視点(財務、顧客、内部プロセス、学習と成長)を記載します。
戦略目標各視点における、達成したい長期的な目標を具体的に記述します。
重要業績評価指標(KPI)戦略目標の達成度合いを測定するための具体的な指標を設定します。
測定可能で、目標と関連性の高いものを選びます。
目標値(期間)設定したKPIの、一定期間における具体的な目標数値を記述します。
期間は、年次、四半期、月次など、企業の状況に合わせて設定します。
実績値(期間) 同じ期間におけるKPIの実際の結果を記録します。
アクションプラン戦略目標を達成するために実行する具体的な施策や計画を記述します。
進捗状況(%)アクションプランの実行状況や、KPIの目標達成度合いをパーセンテージで示します。
課題・対応策目標達成やアクションプランの実行における課題と、それに対する具体的な対応策を記述します。

テンプレートを利用にあたってのポイント:

  1. まずはシンプルな目標から:
    最初から完璧なBSCを作ろうとせず、まずは各視点について、最も重要な戦略目標を1つか2つ設定することから始めましょう。
  2. 測定可能なKPIを設定:
    定量的に測定できるKPIを設定することが重要です。「顧客満足度を向上させる」だけでなく、「顧客満足度調査の平均スコアを〇点にする」のように具体的にします。
  3. アクションプランを具体的に:
    「〇〇を改善する」といった抽象的な表現ではなく、「〇〇のための会議を毎週開催する」「〇〇に関する研修を〇月までに実施する」のように、具体的な行動レベルまで落とし込みましょう。
  4. 定期的なレビュー:
    作成したBSCを定期的に見直し、目標の達成状況やアクションプランの進捗状況を確認し、必要に応じて修正しましょう。
  5. チームで共有:
    BSCの内容を関連するチームメンバーと共有し、目標達成に向けた意識を高めましょう。
注意点
  • このテンプレートはあくまで一例です。企業の業種、規模、戦略によって、適切な視点や目標、KPIは異なります。
  • BSCは、目標を設定して終わりではありません。定期的なモニタリング、分析、そして改善のサイクルを回すことが最も重要です。
  • 最初から完璧を目指すのではなく、試行錯誤しながら自社に合ったBSCを構築していくことが大切です。

このテンプレートとポイントを参考に、自社の経営状況に合わせてBSCの作成と活用を始める一助となれば幸いです。

なお、このテンプレートは、Excelに取り込んで好きな形に編集するなど利用することができます。その方法につきましては、以下の記事を参考にしてください。

部門別BSCの活用

BSCは、会社全体だけでなく、経理部門のような個別の部門の目標や戦略達成にも活用できます。

部門別BSCのメリット

  • 部門目標の明確化: 会社の戦略目標と連動させながら、部門独自の目標を明確に設定できます。
  • 部門KPIの設定: 部門の業績を評価するための適切なKPIを設定できます。
  • 部門活動の可視化: 部門内の活動が目標達成にどのように貢献しているかを可視化できます。
  • 部門間の連携強化: 他部門との連携を促進し、組織全体の目標達成に貢献できます。
  • 従業員のモチベーション向上: 部門目標への貢献を実感でき、従業員のモチベーション向上に繋がります。

経理部門におけるBSCの例

例えば、経理部門のBSCでは、以下のような視点、目標、KPIが考えられます。

  • 財務の視点
    • 目標: 財務報告の信頼性向上、コスト削減
    • KPI: 財務諸表の正確性、内部監査での指摘事項数、経理業務コスト
  • 顧客の視点
    • 目標: 内部顧客(他部門)への貢献度向上
    • KPI: 財務情報の提供スピード、他部門からの満足度調査結果
  • 内部プロセスの視点
    • 目標: 経理業務の効率化、内部統制の強化
    • KPI: 決算処理日数、請求書処理時間、内部統制監査の実施率
  • 学習と成長の視点
    • 目標: 経理部門の専門性向上、働きやすい環境づくり
    • KPI: 従業員の資格取得率、研修参加時間、従業員満足度

このように、BSCを部門レベルで活用することで、部門の目標を会社の戦略目標に沿って設定し、具体的なKPIを設定することで、部門の業績を客観的に評価し、改善に繋げることができます。

まとめ

バランス・スコアカードは、短期的な視点と長期的な視点のバランスを取りながら、企業の戦略目標達成を支援する包括的な経営管理フレームワークです。

財務、顧客、内部プロセス、学習と成長という4つの視点から戦略の進捗状況を評価し、組織全体の目標達成に向けた行動を促進します。

また、会社全体だけでなく、経理部門のような管理部門の目標や戦略達成にも活用できます。

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