第2回|営業利益率の“落とし穴”――経営レバレッジで企業体質を読む

― 利益率ではなく、「構造」で企業を読む ―

第1回の続き:「数字を読めるけれど、使えない」を解消するシリーズ

前回(第1回)では、簿記で学んだ知識を「経営の言語」に変えることをテーマに、数字を“記録”から“行動”へとつなぐ思考法を紹介しました。

簿記の知識を実務で活かすためには、単に「正確な数字を出す」だけでなく、
その数字をどう読み取り、どう行動に結びつけるかが大切です。

このシリーズ「簿記から“使える会計”へ」では、簿記の学びを土台に、USCMA(米国公認管理会計士)が重視する“数字を活かす会計思考”を、実務に応用できる形で紹介していきます。


この第2回で学べること

今回のテーマは、「営業利益率の“落とし穴”――経営レバレッジで企業体質を読む」

会計の現場では「営業利益率」や「粗利率」といった数値が頻繁に使われます。
しかし、その数字だけを見て経営を判断すると、“体質”の違いを見落としてしまうことがあります。

第2回では、次の3つのポイントを中心に学びます。

  1. 利益率では見えない「費用構造」の重要性
  2. 固定費と変動費から読み解く“経営の筋肉”とは何か
  3. 営業利益率の裏にある“レバレッジ構造”を見抜く方法

つまり、今回は「数字の結果」ではなく「数字の構造」を読み解く回です。
数字を“経営の診断”に使うための、第一歩となる考え方を身につけましょう

数字は合っているのに、なぜか違和感がある

会計の現場では、正しい数字を出しているのに、なぜかしっくりこないことがあります。

「営業利益率は高いのに、なぜか経営が安定しない」
「前年より利益率は下がったけれど、現場の感覚では良くなっている」

数字は間違っていない。
でも「経営の実態を映していないように感じる」――その違和感の正体は、利益率という“結果の数字”だけを見ていることにあります。

実は、企業の体質は「利益率」ではなく、その裏にある費用構造(固定費と変動費のバランス)にこそ表れます。

利益率は「結果」、費用構造は「体質」

簿記では、費用を「販売費」「一般管理費」「原価」などの勘定科目で整理します。
これは会計の基本であり、正確な記録を行ううえで欠かせません。

しかし、経営の現場ではもう一歩進んで、費用を「固定費」と「変動費」という性質の違いで見ることが求められます。

  • 変動費:売上に比例して増減する費用(例:原材料費、販売手数料など)
  • 固定費:売上に関係なく発生する費用(例:人件費、家賃、減価償却費など)

この2つの性質が、企業の「経営体質」を形づくります。

たとえば固定費が多い企業は、売上が下がっても支出があまり減らないため、利益が大きく減りやすい“筋肉質型”です。
一方、固定費が少なく変動費中心の企業は、売上に合わせて費用も動く“しなやか型”。

つまり、営業利益率の高さ=経営が強いとは限りません。
数字そのものではなく、その裏にある費用構造(体質)こそが、企業の強さやリスク耐性を左右します。

売上が変わると、経営の筋肉が試される

では、実際にこの「体質の違い」がどのように利益に影響するのかを見てみましょう。

会社A会社B
売上高1,000(100%)1,000(100%)
変動費400(40%)700(70%)
固定費400(40%)100(10%)
営業利益200(20%)200(20%)

どちらも営業利益率は20%です。
一見すると、どちらも同じように“儲かっている”会社に見えます。

ところが、翌期に売上が10%減少して900になったとき、それぞれの利益は次のように変化します。

会社A会社B
売上高900(100%)900(100%)
変動費360(40%)630(70%)
固定費400(44%)100(11%)
営業利益140(16%)170(19%)

どちらも売上は同じく10%減りましたが、会社Aの利益は200→140(30%減)、会社Bは200→170(15%減)

利益の減少幅が、まったく違うことがわかります。


なぜ、同じ10%減でも利益の減り方が違うのか?

理由は、固定費の重さにあります。

会社Aは固定費が大きいため、売上が減ってもコストがあまり減りません。
つまり、「体が重い」状態です。
売上が少し落ちただけで、利益が大きく圧縮されてしまうのです。

一方、会社Bは固定費が軽く、費用の多くが売上に比例して動く“しなやかな構造”。
売上が減れば費用も減るため、利益の落ち込みは小さく済みます。

このように、固定費が多い企業ほど利益の振れ幅が大きく、変動費が多い企業ほど安定しやすいという特徴があります。

「経営レバレッジ」という考え方

経営レバレッジ(Operating Leverage)とは、

売上の変化が、利益にどの程度の影響を与えるか
を示す指標です。簡単に言えば、企業の「利益の振れ幅」を測る考え方です。

①固定費が重いほど、利益は大きく揺れる

企業には、売上に比例して変動する費用(変動費)と、売上に関係なく発生する費用(固定費)があります。
この固定費の割合が高いほど、売上の変化が利益に大きく影響します。

  • 固定費が大きい企業:売上が少し下がるだけで利益が大きく減るが、逆に売上が伸びると利益が一気に増える。
  • 固定費が小さい企業:売上が下がっても利益の減少は小さいが、売上が伸びても利益の増加は緩やか。

つまり、固定費の多い企業は「利益の振れ幅が大きい」、固定費の少ない企業は「利益の振れ幅が小さい」と言えます。

②どのように測るか(基本の考え方)

経営レバレッジの考え方は、次のような比率で表されます。

経営レバレッジ = 貢献利益 ÷ 営業利益
(※貢献利益 = 売上高 − 変動費)

この比率が大きいほど、売上の変化に対して利益が大きく動きます。
つまり、レバレッジが高い=利益が敏感に反応する構造です。

②先ほどの例で確認

先ほど紹介した2社を例に考えてみましょう。

会社A会社B
売上高1,000(100%)1,000(100%)
変動費400(40%)700(70%)
固定費400(40%)100(10%)
営業利益200(20%)200(20%)

ここで貢献利益を求めると、

  • 会社A:1,000 − 400 = 600
  • 会社B:1,000 − 700 = 300

したがって経営レバレッジは、

  • 会社A:600 ÷ 200 = 3.0
  • 会社B:300 ÷ 200 = 1.5

この数値は、「売上が1%変化すると、利益が何%変化するか」をおおまかに示しています。

もし売上が10%下がった場合、

  • 会社Aの利益は約30%減(200 → 140)
  • 会社Bの利益は約15%減(200 → 170)

実際の変化もほぼこの比率に近い結果になっています。

④実務での活かし方

経営レバレッジを意識することで、企業のリスク構造を理解できます。

  • 不況時の耐久力:固定費が多い(高レバレッジ)企業は利益が急落しやすい。
  • 成長局面の伸びしろ:高レバレッジ企業は売上増で利益が急拡大する。
  • 経営戦略の選択:固定費を削減し、外注化や変動費化を進めると安定性が高まる。
    逆に、攻めの局面では固定費投資を増やし、利益を伸ばす戦略もある。

このように、経営レバレッジは「どのような体質の経営をしているか」を把握するための指標です。

⑤注意すべき点

経営レバレッジは「高いほど良い」「低いほど悪い」というものではありません。
事業の性質や市場環境によって、望ましい水準は異なります。

  • 安定を重視するビジネス(サービス業や小売業など)では、低レバレッジの方が安心。
  • 成長を狙うビジネス(製造業やITプラットフォームなど)では、高レバレッジが有利に働くこともあります。

重要なのは、「自社の費用構造を理解し、それに合わせた経営判断を行うこと」です。

数字を「結果」ではなく「構造」で読む

では、この考え方をどう実務に活かせばいいのでしょうか。

まずは、自社や担当部門の損益計算書を開いて、次の3つの問いを立ててみてください。

  1. 売上に比例して動く費用(変動費)はどれか?
  2. 売上に関係なく発生している固定費はどれか?
  3. 売上が10%変動したとき、利益はどの程度動くか?

この3つを意識して数字を見るだけで、損益計算書の“見え方”が変わります。
数字が「報告」から「洞察」へ、そして「経営の言葉」へと変わっていくのです。

まとめ:数字の“結果”から“未来”を読む力へ

営業利益率は、企業の成果を映す「結果の数字」です。
けれども、その裏にある固定費と変動費のバランス――つまり「費用構造」こそが、経営の体質を示します。

この構造を読み解くことで、同じ利益率でも「なぜ安定しているのか」「なぜ脆いのか」を見抜けるようになります。
そして、固定費の重さが生む利益の振れ幅を理解する考え方――経営レバレッジ――は、まさに経営の筋肉を分析するための視点です。

ここまで学んできた内容を整理すると、次のように言えます。

  • 簿記は「数字を正しく記録する力」
  • 費用構造分析は「数字の意味を読み取る力」
  • 経営レバレッジの理解は「経営の動きを予測する力」の入口

つまり、数字を“読む”ことができれば、次にできるのは“未来を描く”こと。

USCMA(米国公認管理会計士)が重視するのは、まさにこの流れです。
数字を使って過去を分析し、そこから未来のシナリオを考える――それが、使える会計の真の目的です。


🧩 次回予告
第3回では、「数字を“予測”に変える会計思考」として、
予算・実績・差異分析を通じ、数字で未来を描く方法を解説します。