こんにちは、USCMA(米国公認管理会計士)のKUNPEIです!
生成AI(Generative AI)の進化は著しく、「人間の専門家が不要になるのでは?」という議論が各分野で起きています。
「このままではAIに仕事を奪われるのでは?」という不安を抱える方も少なくありません。
2024年5月号の『Strategic Finance』誌では、「Generative AI: Smarter Than a CMA?」という挑戦的なタイトルで、AIがUSCMAの試験に合格したことが報告されました。
USCMAのような高度な専門知識も、いずれAIが代替してしまうのでしょうか?
一方、IMAとDeloitteが共同で発表した『次世代のコントローラーシップ』レポートでは、AI活用が経理・財務部門に求められるスキルの変化を促していることを明らかにしています。
今回は、上記2つの重要な記事を参考にしながら、生成AI時代において経理・財務部門が本質的な役割を果たすために求められるスキルについて詳しく見ていきます。
目次
AIが専門試験に合格する時代
2024年5月に『Strategic Finance』に掲載された記事「Generative AI: Smarter than a CMA?」*1は、AIの驚くべき能力を示唆しています。
ChatGPT 3.5では難しかったUSCPA試験やUSCMA試験も、新しいChatGPT 4では合格できるレベルに達していることが明らかになりました。(ただし、これは「ゼロショット」(事前トレーニングなし)ではなく、ある程度の調整や学習が加えられた結果)
これは、AIが単なる計算やデータ処理のツールではなく、専門的な知識と論理的思考を習得できるようになったことを意味します。
では、この事実をもって「AIはUSCMAを超えた」、「AIがUSCMAも代替してしまう」と結論づけて良いのでしょうか?
参考文献:
*1:Generative AI: Smarter than a CMA? | IMA – Strategic Finance
(https://www.imatoday.org/learn/article/generative-ai-smarter-than-a-cma)

次世代コントローラーシップが示すAIの役割
この問いに対するヒントは、IMAとDeloitteが共同で発行したレポート「Next-Gen Controllership: Harnessing AI and emerging technologies to transform finance and accounting」*2に見ることができます。
このレポートは、AIの導入が会計業界で加速していることを示していますが、AIが人間の仕事を完全に置き換えるわけではないと述べています。
レポートが強調しているのは、AIが私たちの能力を拡張するツールであるという点です。
具体的には、AIは以下のような変革をもたらします。
- 定型業務からの解放: AIがデータ収集やレポート作成といった定型業務を自動化することで、経理・財務部門はより高度な分析や戦略策定に時間を割くことができます。
- より深い洞察: 過去のデータ分析だけでなく、将来を予測する予測分析にAIを活用することで、ビジネスの意思決定を支援する価値ある情報を提供できます。
参考文献:
*2:Next-Gen Controllership: Harnessing AI and Emerging Technologies to Transform Finance and Accounting | IMA
(https://www.imanet.org/en/Research-Publications/IMA-Reports/Next-Gen-Controllership-Harnessing-AI-and-Emerging-Technologies-to-Transform-Finance-and-Accounting)
「AIに負けない」のではなく「AIを使いこなす」
結局のところ、「AIがUSCMAを超えるのか?」という問いへの答えは、「AIは私たちUSCMAなどの会計専門家の能力を拡張する存在であり、その可能性を最大限に引き出すのは私たち自身である」ということになります。
AIが進化して私たち経理・財務部門が教授できる主なメリットは以下とおりです。
- 業務の自動化により、人的負担を軽減。
- 高度な分析や戦略的判断に時間を割けるようになる。
- 財務プロセスの精度向上と意思決定の迅速化。
すなわち、AIの台頭は、経理・財務部門にとって脅威ではなく、より創造的で価値の高い仕事へとシフトする絶好の機会なのです。
ですから、私たちは、AIを使いこなす「次世代の経理・財務部門」を目指して、学び続ける必要があります。
AIの得意・不得意領域とは
AIを使いこなすには、まずAIの得意な領域、不得意な領域を理解する必要があります。
この表は、生成AIと人間がそれぞれどのような業務に強みを持ち、どの業務で人間の介入が不可欠かを示したものです。
領域 | AIの得意度 | 経理・財務部門 の必要性 | 補足説明 |
---|---|---|---|
定型的なレポート作成 | ◎ | △ | 自動生成が可能。USCMAは最終レビューが中心。 |
財務数値の集計・分析 | ◎ | ◯ | 精度は高いが、解釈には人間の判断が必要。 |
戦略的意思決定支援 | △ | ◎ | 定性的判断・部門間調整は専門家の領域。 |
倫理的判断・リスク評価 | △ | ◎ | 規範や文脈に依存する判断はAIが苦手。 |
関係者との交渉・調整 | × | ◎ | 感情・信頼関係の構築は人間のスキル。 |
AIの得意な領域と苦手な領域をまとめると、以下のようになります。
- AIは定型的なフォーマットに沿ったレポートを素早く正確に作成したり、大量のデータを高速・正確に処理が可能
- AIはシミュレーションを行うことができるが、「この選択肢が組織の文化や中期戦略に合っているか」といった定性的判断は困難
- AIは規範や社会的背景、企業の信用などを考慮するリスク判断は苦手
つまり、定型的な会計処理や数値の集計・分析といった「知識ベース」の作業は、AIでもかなりの精度で代替可能です。
しかし、人間の価値観や組織文化、倫理的判断を理解することはできません。
したがって、経理・財務部門の人間は、数字の裏にある「意味」を読み解き、経営陣や現場と対話しながら、最適な選択肢を導き出す能力を学び続ける必要があります。
それでは、具体的にどのような能力を身に着ければよいのでしょうか?
経理・財務部門がAIを使いこなす未来に必要なスキルとは?
IMA × Deloitteレポートによると、今後、経理・財務部門に求められるスキルセットは以下のように変化しています。
これまで重視されてきたスキル
AIが本格的に導入される以前、経理部門で特に重要とされてきたのは、主に正確性と効率性に直結するスキルでした。
- 簿記・会計の知識: 財務諸表作成、仕訳、勘定科目理解など、会計業務の根幹をなす知識は常に不可欠でした。
- 正確性と細部への注意: 伝票処理やデータ入力、レポート作成において、ミスなく細部まで正確に作業をこなす能力が極めて重視されました。
- 会計基準・税務知識: 関連する会計基準や税法を正確に理解し、適切に適用する専門知識は、経理業務の法的・制度的側面を支えました。
- 効率的な事務処理能力: 大量の伝票や帳簿、レポート作成などを迅速かつ効率的に処理するスキルが、日々の業務遂行において重視されました。
- Excelスキル: 表計算ソフトを用いたデータ集計、分析、レポーティングは、多くの経理部門で業務効率化の要でした。
AIが進化する現代において、経理部門の役割は、単なる数字の処理から、企業の戦略的な意思決定を支えるビジネスパートナーとしての役割に多くの時間を使うことが期待されています。
この変化に対応し、AIを最大限に活用するために、以下のスキルが特に重要視されています。
今後習得すべきスキル
- 戦略的思考とビジネスパートナーシップ: 定型業務から解放されることで、経理・財務の核である戦略的な意思決定支援やビジネスパートナーとしての役割に注力する能力がより一層求められます。
- データ分析とデータリテラシー: AIは大量のデータを分析しますが、その結果を経営に活かすためには、経理・財務部門としてデータから洞察を得て、アクションにつなげるデータ分析スキルとデータに対する深い理解が必要です。これには、データ可視化、データサイエンス、機械学習、AIの基礎知識も含まれます。
- テクノロジー活用能力: AIツールやその他のデジタル技術を理解し、経理業務に効果的に導入・活用する能力が不可欠です。レガシーシステムとの連携や、セキュリティに関する知識も重要になります。
- 継続的な学習と適応力: テクノロジーは常に進化しています。新しいツールや手法を積極的に学び続け、変化に柔軟に対応する姿勢が求められます。
- 批判的思考: AIが導き出した結果を盲信せず、常に批判的な視点を持ってその妥当性を評価し、最終的な判断を下す能力は、今後も人間の専門家にとって最も重要なスキルであり続けます。
特に、「AIに何をどう聞くか(プロンプト力)」や「AIの結果をどう読み解き、意思決定に活かすか」といった“翻訳者としての能力”が、今後の経理・財務部門には不可欠となるでしょう。

AI時代における経理・財務部門の役割:不変の本質と進化する手段
わたしは、経理・財務部門の役割について、そろばんや手書きの伝票が主流だった時代から、そして現代のデジタル化された世界に至るまで、その核となる部分は一貫して変わっていないと思っています。
それは、単なる数字の記録者ではなく、企業の戦略的な意思決定を支え、ビジネスパートナーとしての価値を提供することです。
これまで、仕訳入力、月次決算レポートの作成、請求書の処理、そして決算書の作成といった定型業務は、経理・財務部門の時間と労力の大部分を占めてきました。
しかし、AIの進化は、これらの定型業務から私たちを解放してくれる大きな恩恵をもたらしています。
- 仕訳入力の自動化(RPA・OCR・AI会計ソフト)
- 月次決算レポートの自動生成(BIツール×AI)
- 請求書の読み取り・登録(AI OCR)
- 財務諸表のドラフト作成(生成AI)
AIがこれらのルーティンワークを効率的に処理してくれるおかげで、先のIMAとDeloitteのレポートでも言及している通り、私たちは本来の役割である「戦略的な意思決定の支援」や「ビジネスパートナーとしての貢献」に、より多くの時間を集中できるようになります。
これは、経理・財務部門が単なるコストセンターではなく、企業の成長を牽引する重要な部門として、その存在感を一層高めるチャンスと言えるでしょう。
AIは私たちから仕事を奪うものではなく、むしろ私たちの生産性を向上させ、より付加価値の高い業務に注力するための強力なツールとなります。
結論:AI時代を生き抜く経理・財務部門になるために
AIの進化を単なる脅威と捉えるのではなく、その可能性を理解し、積極的に学び、活用していく姿勢が求められます。
定型業務をAIに任せることで、経理・財務部門はより戦略的な意思決定やビジネスパートナーとしての役割に注力できるようになります。
逆に言うと、これからの時代、AIをうまく活用できる能力を身につけないと、本来の経理・財務部門の役割を果たすことができないのです。
AI時代を生き抜く経理・財務部門になるために、以下のことを心がけましょう。
- AIの能力を理解し、活用する: 適切なトレーニングとプロンプトにより、AIは複雑な課題を解決できることを認識する。
- 批判的思考を養う: AIの出力を鵜呑みにせず、常に検証する習慣を身につける。
- 継続的な学習とスキルアップ: AIツールの進化を学び、データ分析スキルなど新しい知識を習得し、自身の価値を高めましょう。
AIを恐れるのではなく、使いこなすことで、私たちの専門性はさらに高まり、組織にとって不可欠な存在となるでしょう。
このブログ記事が、皆さんのキャリアとAIの未来について考えるきっかけになれば幸いです。
