経理・財務部門に求められるリスキリング

ここ数年、「リスキリング」という言葉が、国や企業において叫ばれています。

雑誌や新聞でも、リスキリングをキーワードとした記事がよく目に付きますよね!

特に、日ごろから自己研鑽を積まれている人なら、このような世の中の流れをいち早くとらえ、リスキリングを意識し何かを始めようとするのではないでしょうか。

ただ、グーグルでリスキリングを検索してみると約1千7百万件(2024年2月時点)もの記事がヒットします!

このように多くの情報があふれているので、「何を学べばいいのか?」など、実際、どう手を付けて行っていいのか迷われるのではないでしょうか?

この記事は、リスキリングに興味ある方で、すでに現在、会社の経理や財務部門で働いている方に特化した内容となっております。

目次

リスキリングとは

リスキリングのイメージ

みなさんは、リスキリングにどういうイメージを持っているでしょうか?

今の職業と全く別のスキルを身に着けること、特に、デジタル・IT人材の領域の育成が目的であるから、プログラミングなどのITスキルを身に着けること

というイメージを持たれていないでしょうか。

確かに、高度にデジタル化されている現代において、デジタル・IT人材は貴重ですし、プログラミングスキルは、非常に重要なスキルです。

ただし、それは、リスキリングの一面的な要素でしかありません。

リスキリングの定義

それでは、リスキリングとは一体どうとらえればよいでしょうか。

経済産業省の資料では、以下のようにリスキリングついて定義しています。

リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と定義しています。

https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/002_02_02.pdf

すなわち、この定義では特にITスキルに限定せず、「必要とされるスキルの大幅な変化」に適応するための必要なスキルが必要ですよといっています。

この「必要とされるスキルの大幅な変化」というのがリスキリングを考えるうえでのカギとなり、また、われわれは、「大幅な変化」というものに危機感を持つ必要があると考えます。

要は、デジタル技術の進展により、既存の仕事の方法、現在の職業の役割は大きく変わるのに合わせて柔軟に対応する必要があるということです。

リスキリングが必要な背景

AIをはじめとするテクノロジーの台頭により、さまざまな職業が自動化され、仕事の進め方が大きく変わったり、なくなる仕事が出てきます。

ただ、一方で、新たに生まれる仕事があると予測されます。

実際、世界経済会議(ダボス会議)では、「数年で8,000万件の仕事が消失する一方で9,700万件の新たな仕事が生まれる」と予測しています。

つまり、デジタル技術の進展により急速に変化する労働環境において、多くの職種でITスキルがますます求められようになっているのと同時に、われわれは従来のスキルに加えて新しいスキルを習得し、これからの職場で成功するために適応していくことが必要なのです。

経理・財務部門とリスキリング

わたしは、経理・財務部門に求められるリスキリングは、急速なテクノロジーの進化やビジネス環境の変化に対応し、効果的な業務遂行を維持するためのスキルと能力の向上を指すと考えます。

経理・財務部門の役割の再定義

AIをはじめとするテクノロジーの台頭により業務の自動化が進み、伝票処理などの伝統的な経理業務の企業内でのニーズは、ますます減少する傾向にあります。

経理・財務部門に求められる役割が変わってきているのです。

それでは、これからの経理・財務部門には、どういった役割が期待されているのでしょうか。

それは、経理・財務部門には経営陣に対して意思決定をサポートする重要な役割を果たすことです。

これまでも、経理・財務部門には、企業が経営戦略を策定する際、管理会計・財務のプロの立場からその意思決定をサポートする役割は期待されておりました。

しかし、近年は、テクノロジーが発展するとともに、グローバル化・多様化が進み、競争が激しくなるなか、企業はさまざまな課題を乗り越え、勝ち抜き、将来に向けた適切な成長戦略を描いていかなくてはなりません。

そのような中で、ますます頼りにされているのが、経理・財務部門なのです。

経理・財務部門で働く人の意識改革

上記のような役割を果たすためには、経理・財務部門で働く人は、意識を変える必要があります。

つまりは、ルールどおりに財務諸表を作成したり、分析資料の作成に多くの時間を費やす現状から脱却し、より経営や事業部サイドに近いところから、経営や事業改善につながる具体的な施策を提案する活動を意識的にする必要があるのです。

経理・財務部門は、とかく「過去」にフォーカスし前月の実績を正確に経営陣に報告することに、リソースを割きがちです。(ていうかそれしかやってません!)

しかし、このような伝統的な経理・財務部門の役割を果たすだけでは、時代に取り残されます

これからは、「未来」にも目を向け、ルールに縛られた高い精度を目指すアプローチではなく、将来に関するある程度の幅を持った予測を受け入れて、将来に向けた具体的な施策を提案する姿に変身する必要があるといえるでしょう。

そのような中で、近年、経営者や営業・製造部門などの事業部門が行う意思決定を支える役割として、FP&A(Financial Planning & Analysis)という職種が注目されています。

経理・財務部門で働く人はFP&Aの能力を身に着けよう!

FP&Aという職種は、欧米では一般的でありましたが、近年、日本の大手企業からも求人が出ているなど注目されています。

企業において独立した1つの部署として設置される場合もありますが、経営者や事業部門が行う意思決定を支える役割を担うFP&Aこそが、これからの経理・財務部門に所属する人材に求められるのではないでしょうか。

そのためにどのようなスキルが必要でしょうか?

答えの一つとして、管理会計の専門家を育成する団体であるIMA(Institute of Management Accountants:米国管理会計士協会)は、「効果的なFP&Aプロセスの12の原則」という手引書を公開しています。

そこには、以下のFP&Aのプロとして活躍するために求められる5つのスキルを紹介しています。

  • FP&Aプロフェッショナルが支援する事業部のFP&Aプロセスの背景にある事業を理解すること。
  • CFO組織 (FP&A、経理および財務)の外側にある部門との効果的な仕事上の関係を構築すること。
  • FP&Aプロフェッショナルが支援している特定の職能分野もしくは事業部門を理解すること。
  • コミュニケーションのスキル
  • 技術的なスキル(たとえば、管理会計、企業財務など)

すなわち、従来の経理部門に求められていた管理会計や企業会計の知識はもちろんのこと、会社の事業を理解し、経営者や事業部門などの関係する組織と効果的な関係を築き、コミュニケーションをとって円滑に情報をやり取りする能力が求められます。

これらのスキルを組み合わせることで、FP&Aのプロとして戦略的な意思決定に貢献し、組織全体の効率性を向上させるのです。

まとめ

  • リスキリングとは、「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」である。
  • リスキリングは、プログラミングなどのITスキルを身につけることだけではない
  • これからの経理・財務部門は、意思決定をサポートする役割となることが重要。
  • FP&Aのスキルを経理部門のリスキリングとして位置付ける

さて、この記事では結論として、FP&Aのスキルを習得することを経理・財務部門のリスキリングのひとつとして位置付けました。

FP&Aのスキルは、経理部門が伝統的な業務を超えて、経営者や事業部門に対して戦略的なアドバイスや意思決定のサポートを提供するために必要なのです。

FP&Aのスキルを身につける方法のひとつとして、USCPA(米国公認会計士)やUSCMA(米国公認管理会計士)などの資格の取得も選択肢として考えてはいかがでしょうか!!

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